COLUMN

イノベーション創出「アート思考」アプローチ 新規事業

イノベーション・「アート思考」・言語化

“イノベーション”、“革新”という言葉は現在ではあまりに多用され、解釈も使う人々や組織によって少しずつ異なっている感があります。「本来のイノベーション」、こういうと語弊があるかもしれませんので、「狭い意味でのイノベーション」と言い直すと、それは課題解決型というよりは課題発見型(あるいは課題提起型)のテーマによって生まれる技術・製品・サービスと言えるのではと思います。

この課題発見(提起)型の意味でのイノベーションは、今の時代、特にこの日本において、最も望まれている事業開発の分野であることはみなさんにもご同意いただけると思います。

この課題発見、課題提起型のイノベーションを創り出す上で、登場するのが、「アート思考」的なアプローチです。従来の論理思考(ロジカル・シンキング)や「デザイン思考」的アプローチと、「言語化」(聞きなれないと思いますが、「言葉にしてみること」と同義です)において共通しています。ただ、多少逆説的に聞こえるのですが、実は「アート思考」アプローチでは、この「言語化」を突き詰める点で、他の思考アプローチと異なっています。

「アート」という言葉から、感性やひらめき、といった言葉を連想し、言葉を超えた何かというイメージを持っている方も多いと思います。また最近の日経新聞(「新事業「アート思考」で探る」2021年1月27日)にも紹介されていた座禅や瞑想といった方法が、アート思考的なあり方そのものであるというような印象を受けられた方も多いと思います。

ところが、「アート思考」的であることは、実際には言語を使ったロジカルな作業のプロセスを多分に含んでいることは、あまり紹介されていません。とても大雑把にその特徴を言い表すと、論理思考(ロジカル・シンキング)や「デザイン思考」的アプローチは、外部の対象(表出している課題、顧客などのステークホルダー、製品などのモノそのものなど)に、より多くの「言語(平たく言えば“思考や言葉”)」を向けますが、「アート思考」アプローチでは、より自分自身の内面に焦点を当てます。

「アート思考」アプローチ

ただし、取り組む事象やテーマという出発点は、モノゴトを深く観察し、定量的に観測できるものは測定し、そして質の高い関連情報をできうる限り収集・整理する、といった最初のプロセスにおいてほぼ同じです。

その次の段階で異なってきます。「アート思考」アプローチでは、言語を用いて自分の内面と向き合い、「自分はどう感じるか」、「それはなぜか」、「自分はどうしたいか」、「なぜそうしたいのか」、…、などの質問を繰り返す、といったプロセスを経ます。

つまり、ここでは突き詰めるための“質問”を媒介にして、さらに事象と深く対話していきます。もちろん、そこで行き止まりにつきあたることは往々にしてあるわけですが、しばらくそのままにしておくことで無意識の働きにまかせることもプロセスに含まれます。あの有名なベストセラー「アイデアのつくりかた」(ジェームス・W・ヤング著)でも紹介されているとおりです。

この無意識化の段階でようやく、座禅や瞑想などのメソッドを活用することができます。もし、ここまでのプロセスを抜かして、つまり特にテーマも課題もなく、座禅や瞑想などのマインドフルネス手法を実践してもイノベーションの創出には直接的に結びつくことはないでしょう。世界の多くのエリートビジネスマンが昔から禅や瞑想を実践し、近年ではマインドフルネスを積極的に取り入れているのかという話題とつながってはきますが、彼らは日々、イノベーティブな課題に直面しているという前提が見落とされがちです。

つまり、具体的な課題やテーマがあった上で、徹底的に内面を見つめるプロセスには効果があります。実際に、このような形で新規事業を生み出していくプロセスを取り入れている先進的な企業事例も増えてきつつあり、一部は書籍などでも紹介されているとおりです。

ところで、瞑想などは、心を落ち着けたり、身体によいという理由で実践されることも一般的には「良い」とされていますが、一方で、その副作用とも思われるケースに関しても、近年、研究事例があることは忘れてはいけないと思います。

無意識の作業で忘れてはいけないのは、自分の内側に蓄積され、はぐくまれてきた思考(無意識ですので厳密にいえば“思考”ではないのかもしれませんが、便宜上)の“触媒(フィルター)”です。触媒(フィルター)”とは、さまざまな人生経験、知識や教養、趣味、美的センス、社会の常識や文化などの、とらえどころのない、いわば“糧”といったものです。

ここまでをざっとまとめると、次のような図式になります。

「テーマ・課題」→(「言語化による洞察」+「心の中に蓄積されてきた”糧“」)→    「無意識の作用」 → イノベーティブなアイデア/新規事業シーズの創出

「アート思考」アプローチの流れ、再び「言語化」

さて、ではどうすれば、一般的な企業において「アート思考」をイノベーションの創出につなげていけばよいのでしょうか。

その一つのあり方について説明します。

「アート」には鑑賞という側面があり、そこで行われる思考と行動を活用することができます。たとえば絵画であれば、実際にその絵画をじっくりと見て、気づいたこと、そこから湧いて出た感情を“言葉で表現してみる”という行為です。(アート思考に関する最近の書籍では、その内容の分かりやすさと秀逸性において突出している「13歳からのアート思考」(末永幸歩著)があります。その中で、“アウトプット鑑賞法”として紹介されています)

実際に試していただくと、すぐに分かるのですが、言語化することで今まで見えていなかった形や、色の微妙な配分、筆遣いやデザイン構成、そして作者の思いまでも想像することができます。そして、ある程度の時間をかけてこの作業をやってみた後、どのような感情が湧きおこってくるか、またそれも言葉にしてみてください。きっと、絵画を鑑賞したという実感、すっきりした気持ちや、満足感などを感じられるのではないでしょうか。

さて、ここで最も重要なポイントは「言語化」です。

「言語化」してみて、はじめていかに目の前の対象(考察すべき事象、テーマ、課題など)を見ていなかったか、あるいは見過ごしてきたかが、如実に分かります。つまり、“気づかなかったことに気づくことができる”のです。そして、次に鑑賞する対象をみなさんの新規事業テーマや課題にあてはめてみましょう。

たとえば、ロジカルなアプローチにしろ、「デザイン思考」的なアプローチにしろ、観察した事象とそこで感じた気持ちや心の動きなども徹底して言語化し、記録し、チームで共有するのです。こうすることで、今まで気づかなかった、あらたな切り口や、今までうまく表現できなかった自分の心の中のひっかかりや、こだわり、好き・嫌いといった微妙な現象のグラデーションが見えてきます。

このように、従来のロジカルなアプローチや「デザイン思考」的なアプローチに「アート思考」的なアプローチを意識して付加することで、より深いレベルで洞察にいたるプロセスを実践することが可能になります。

また、言語化することで、はじめてチームのメンバーと、より正確に、より深く情報を交換することができるようになります。さらに他者の情報(アイデア)と融合したりすることで、あらたな視点や仮説にたどり着くきっかけが生まれるのです。

これが大まかなイノベーションや新規事業創出アプローチの流れです。

次回はイノベーション創出の体系についてお話しする予定です。そこでは、ここでお話ししたようなアプローチをより効果的な流れにするための「フレームワーク(枠組み)」とその構造についてが主題です。

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本コラムをお読みいただきありがとうございました。

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