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そして、記念すべき第1話をお読みいただき、重ねて感謝します。
第1話 世界展開を考える時、企業が押さえておくべき「真に売るべきもの」とは?
ブランドって何だろう?
さて、このサイトのタイトルでもある「世界ブランド化」って、あまり聞きなれない言葉だけど…、要するに世界に向けて自社ブランドを発信して世界展開を目指そう、さらに世界市場を舞台に収益化の仕組みをつくる、という意味だよね? ———– という風に受け止められているかと思います。
そのとおりです!
ただ、「ブランドって何だろう?」と立ち止まって考えてみると、結構漠然としていませんか。さらに、その前に“世界”がついているとなると…。
B2C、いわゆる消費者をユーザー対象としてされている事業の場合には、“ブランド”という言葉は身近ですね。でも、あまりにも当たり前すぎて、「ロゴマークや製品名、そのパッケージのデザインのことだろう?」という風に、ブランドの目に見える部分のみをイメージされるかもしれません。また、企業を対象とするB2B企業の場合、「ブランドなんて関係ないだろう」と思われているかもしれません。
実は、上のB2C、B2Bのどちらの理解も正しくありません。「世界ブランド化」を目指すためには、実はこのブランド、より具体的には「自社ブランド」について、突き詰めて考えていくことが必須になってきます。それは、B2CでもB2Bでも同じです。
“コンテンツ”と“コンテクスト”
ブランドは、ざっくり言って、“コンテンツ”と“コンテクスト”から成り立っています。
“コンテンツ”とは、中身=商品であり、サービス業の場合には直接的に提供されるサービスそのものです。つまり直接的に見たり触れたり体感できる価値です。一方、“コンテクスト”とは、そのコンテンツの回りを取り巻くすべての価値です。そしてその大半は目には見えない部分です。このことをもう少し説明します。
今は、「モノが売れない時代」と言われて久しいですが、逆にたとえば目に見えない良質な”体験”や、その体験を通して得られる”共感”や”満足感”などの”快”の気持ちに対しては、人々は進んでその機会を求め、お金を払おうとします。
物質的な豊かさを追い求める時代は終わり、精神的な豊かさを求める今の時代、モノ(コンテンツ=商品)が洗練されていることは必要条件なのですが、それだけでは足りません。
そのコンテンツが生み出される開発者の思いや背景、企業の歴史や理念、ビジョンといったコンテクストの部分が、実はより大きな価値をもたらす源泉といってもよいと思います。つまり、理念を含む会社や事業のコンテクストの部分が、その価値の源泉であり、コンテンツと合わせて顧客がほぼ無意識的に求めている”本当の何か(something good)”です。
欧州のブランドは皆このことをよく知っていて、いかにコンテクストの部分を魅力的にアピールするか、そしてその価値にコンテンツ以上の値付けをします。そして、商品そのものをアピールするよりも、そのブランドの持つ世界観を表現するためのコンテクストの部分により多くの広告やPRの予算をかけています。
日本の伝統を担う老舗企業にも、このコンテクスト部分にこそ、もっと光をあてて、自社のブランドを磨いてほしい、と常々考えています。間違いなく企業寿命がもっとも長い日本の、さらにもし100年以上続く伝統的な企業であれば、欧州のブランド以上のリッチなコンテクストを持っているはずです。
また、新しい企業であっても、世界的な価値観に合致する理念やビジョン、そして日々の企業活動の中に、そのようなコンテクストを豊富に蓄積していくことが、自社のブランドを短期間に磨いていくことになります。たとえば、パタゴニアのような地球環境保全に対する積極的な企業姿勢や経営哲学を前面に打ち出すことで、リッチなコンテクストを生みだし、蓄積している事例。また日本において、同じアウトドア分野では、スノーピーク社が自然とのふれあいから人間性の回復を理念に掲げ、事業活動を行い広く人々の支持を得ているなどの事例にみることができます。
このように、洗練されたコンテンツ(商品‐目に見えるもの)とコンテクスト(広い意味での理念やビジョン‐目に見えないもの)がそろって、はじめて高い価値を世の中に生み出すことができます。そして、そのまま“世界ブランド”と称するにふさわしい、日本発のブランドに仕上げることができます。
「真に売るべきもの」とは?
事業活動において、“売るべきもの”とは当然、商品、つまりコンテンツであるわけです。このため、商品の洗練化に磨きをかけるために、これでもかというくらい、さまざまな機能的な特徴をそろえ、商品のプレゼン資料を用意し、商品キャンペーンを組み、商品のプロモーション・イベントを企画し、その上、常に競合他社の動向に目を配り、開発部門はコストダウンに全精力を傾け…、
これが、ごくごく一般的な“ものを売る”毎日ですね。でもここから見えてくることは、どこまでもコンテンツだけを念頭においた施策であり、モノ中心の日々の事業活動です。
ここからは、コンテクストは何も見えてきません。せいぜい、たまたま訪れた企業のホームページ内で、耳に心地よい言葉で飾られた言葉の羅列を目にするくらいです。
世界的な規模で、精神的な豊かさを求める今の時代、真に売るべきものは、物質(あるいは直接的なサービス)であるコンテンツではなく、コンテクストです。少々極論であることを承知であえて言えば、コンテンツは、コンテクストに触れ、体験し、共感することで“快”を得るための媒体としての位置づけ、つまり副次的なポジションになりつつあります。
ただし、副次的とは言え、やはり洗練されたコンテンツは良質なブランドにとっては、必要条件です。どれだけすばらしいコンテクストを持っていたとしても、コンテンツが粗悪であれば、ブランドは成り立ちません。
つまり、コンテクストとコンテンツは掛け算の関係といってもいいと思います。どちらかが0であれば、ブランドとして成り立ちません。また、コンテンツが粗悪であれば、コンテクストがどれだけプラスであっても、結果はマイナスになってしまうからです。
さらっと言ってしまいましたが、このことは多くの日本企業にとっては、実は「真に売るべきもの」を持っていなかった、あるいはリッチなコンテクストを持っていても、そのことに気づかずに、それを売ってこなかった、ということを意味しています!
そして、モノ(商品そのもの)が、なぜ今、売れないのかの答えがここにあります。
「モノ消費からコト消費へ」という、市場環境の変化を表す言葉があります。この言葉を鵜呑みにして、コト、たとえばイベントの場(バーチャル、オンサイトにかかわらず)を整え提供するだけでは片手落ちです。つまり、ここでもコンテクストが抜け落ちているからです。モノが売れないから、コトの施策を打ってみたけどうまくいかない、「なぜ?」の答えもここにあります。
世界ブランドづくりの第一歩
洗練されたコンテンツがすでに“ある”ことを前提として、話を続けます。
世界ブランドづくりのために、今すぐ着手すべきは、コンテクストを整理し、言語化することです。(世界ブランド化にあたっては、最終的には英語でコンテクストを表現することが必須ですが、まずは日本語でまとめていきます)
さらに、コンテクストの中でも、まず取りかかるべきは、企業の理念・目的を含む、「なぜ我々はこの事業を行うのか?」、「なぜ我々なのか?」といった企業存在の根本部分です。
実は、このワークは世界市場に向けて、というよりは国内外関係なく、ある重要な効果を、経験則としてですが、生みだします。
理念・目的=”軸”が言語化されるということは、企業の、さらに企業の全活動の”中心軸”がしっかりと定まることになります。この軸が定まると、この軸を中心に事業活動の全体がきれいに整理され、回りはじめます。そして、整理されればされるほど、またその理念や目的を外に広めれば広めるほど大きな共感の輪が広がり、国内外を問わず、さまざまなビジネス・チャンスにも多く出会う可能性が生まれていきます。
実は、この「理念や目的を広めれば広めるほど」とは、まさに、コンテンツではなくコンテクストを売ることそのものなのです。つまり、今、日本の多くの企業が「真に売るべきもの」であり、その姿なのです。
これが、世界ブランド化への第一歩になります。そして、もうお気づきのとおり、世界とは当然、日本国内も含まれます。企業の“中心軸”が定まれば、日本の“内と外”、というダブルスタンダードで考える必要もなく、シンプルに“世界ブランド”として捉え、「真に売る姿」をのみ真剣に追求していけばよくなります。
今回は第1話ということで少々長くなりましたが、日本企業が押さえておくべき「真に売るべきものは何なのか」というお話をしました。
御社は、「真に売るべきもの」を、すでに持っておられますか?